そう楽器「算盤(そろばん)」
算盤を楽器代わりに使って歌い踊るエンターテイナーと言えば「トニー谷」である。
トニー谷が算盤の芸をやって人気を得ていたのは1950年代。それは私が生まれた頃で当然トニー谷の芸を見たことはない。テレビもない時代だから、たとえ成人していたとしても、このような田舎では見る機会はなかったと思う、そんな昔の話である。
それでも私はトニー谷を知っている。小林信彦の「日本の喜劇人」には「トニー谷は異端・邪道・外道芸人の華である」と書いてある。なんだか破格の面白さがあったのだろう。
私がトニー谷という芸人を知ったのは1963年(昭和38年)頃の人気テレビ番組「アベック歌合戦」の司会をしたからだ。
「あんたのお名前なんてえの」
というフレーズを見て、節とリズムをつけて言えるのは1960年代以前に生まれた人に限られるだろう。トニー谷は1950年代前半の全盛期から一時鳴りを潜めていたが、このフレーズで復活したのである。
私は、このフレーズのリズム伴奏に算盤を使っていたと思い込んでいたのだが、実は拍子木を使っていたらしい。そうだとしても、トニー谷のリズミカルで歯切れのいいしゃべりと出演者におもねらない司会は、子供心に痛快な印象を持ったことを覚えている。
それにしても、トニー谷と算盤の結びつきは1950年代にあったのだ。そのころの算盤を使ったトニー谷の楽曲として「さいざんすマンボ」とか「そろばんチャチャチャ」があるようだけれど(ウィキペディアなら確認できる)そのころの人気の言い伝えのようなものが、私の記憶の中でトニー谷と算盤を関連させていたのだ。
算盤とラテン音楽は親和性が高いと思う。算盤を降るだけでマラカスのようになるし、指で盤面をこすればギロのようになるし。実際、算盤の授業の後の休み時間は教室がラテンリズムであふれたものだった。
今日、算盤は事務環境においては電卓に一掃された。かつて算盤芸人はでたけど、今後電卓芸人は出ないだろう。だって、電卓は音が出ないやん。
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